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交通事故に健康保険や労災保険は使えない!?使うとデメリットがある?

交通事故でケガをした場合の治療には、公的医療保険である健康保険や労災保険(労働者災害補償保険制度)等の社会保険は使えないと勘違いされている方がいらっしゃいますが、そのようなことはありません。

交通事故の場合でも健康保険や労災保険を使うことが可能です(健康保険は、サラリーマンが加入している組合管掌、協会健保又は、自営業者等が加入する国民健康保険等、どの制度でも利用可能です)。

更に、健康保険や労災保険を使わない場合、交通事故の被害者の方にデメリットが発生する可能性があります。

今回は、交通事故の際に健康保険を使う場合の下記ポイントについて解説します。

  • 交通事故の際に健康保険が使える根拠とは?
  • 交通事故の際に病院で健康保険を使う場合の注意点
  • 交通事故の際に健康保険を使わない場合のデメリットとは?


1.交通事故でも健康保険は使える?

業務中や通勤中に交通事故に遭えば労災保険、業務外(プライベート)で交通事故に遭えば健康保険を利用して治療を受けることが可能です。

交通事故に遭って病院に行き、健康保険を使えるかと聞くと、「使えません」という回答が返ってくることがありますが、決してそのようなことはありません。

健康保険を使えば、治療費は3割負担で済みますが、健康保険を使わず自由診療になると全額自己負担になります。労災保険の場合は、健康保険と違い治療費の自己負担はありません。

40年以上前に以下のような通知が出ていますが、交通事故時には健康保険が使えないとう勘違いは今でも耳にします。

【旧厚生省の課長通知 抜粋】

「(・・・略)自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい(略・・・)」

(昭和43年10月12日 保険発第106号 「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」)

 

 

 

2.交通事故で健康保険を使う場合の注意点

交通事故で治療を受ける際に注意して頂きたいことがあります。それが、病院や診療所側の対応です。

実際に私が追突事故に遭い、診療所で健康保険証を出し、治療を受けたときの受け付けでの対応は下記の通りです。

受付:「交通事故では健康保険が使えないので、自由診療となり全て自費での支払いになります!」

:「え?健康保険が使えますよね?」

受付:「では、第三者行為による傷病届を出してください!」

受付では、交通事故では健康保険が使えず、自費での支払いになるとかなり強い口調で言われました。私は、交通事故でも健康保険が使えることを知っているため、毅然と反論しました。

すると、前言を訂正することもなく、また、前言を謝罪することもなく、「第三者行為による傷病届を出してください」と不機嫌そうに言われました。

診療所側の上記のような対応には非常に不快感を感じました。仮に私が交通事故で健康保険が使えることを知らなければ、自由診療での治療を納得せざるを得ないでしょう。

上記のような現場での間違った対応が、一般の方に交通事故では健康保険は使えない」という勘違いを助長させます。

交通事故で病院や診療所に行った際に「健康保険は使えない」と言われた場合は、私のように毅然と「使えますよね?」と反論してください。

後ほど解説しますが、交通事故を自由診療にしてもメリットはありません。逆にデメリットが発生する可能性があるので、注意が必要です。

 

 

 

3.交通事故の際に健康保険を使わない場合のデメリット

交通事故で病院に行くと「健康保険が使えない」と言われることや、健康保険は使えないと思っている方が多いため、交通事故被害者の治療の多くは自由診療で行われています。

自由診療での治療は健康保険や労災保険を使用する場合のような制約が病院側にはありません。診療内容について医師の自主判断に任せれているため、治療費が高額になるケースがあります。

健康保険の場合、診療報酬の点数単価は1点10円と決まっていますが、自由診療の場合、1点あたりの単価は病院の裁量で決められます。

例えば、自由診療の点数単価を1点あたり20円にすれば、健康保険で治療を受ける場合と比べて治療費が2倍となります。

治療費が高額になる場合、下記のように被害者の方にデメリットが発生する場合がありますので、健康保険や労災保険等の社会保険を利用して治療した方が有利な場合があります。

同じ内容の事故でも健康保険を利用した場合と、自由診療の場合では下記の通り、損害額合計が異なります。

(健康保険の自己負担30%)

自由診療の場合

健康保険適用

治療費

300万円

90万円

休業損害

 80万円

80万円

慰謝料

 80万円

80万円

損害額合計

460万円

250万円

 

交通事故では被害者に過失(責任)がある場合、治療費も過失相殺の対象になります。交通事故の大半は、被害者に何らかの過失がある場合が多いのが現状です。上記の損害額に過失相殺を考慮すると下記のようになります。

(被害者の過失割合30%)

自由診療の場合

健康保険適用

損害額合計

460万円

250万円

過失相殺(30%)

-138万円

-75万円

損害賠償額

322万円

175万円

病院への支払

-300万円

-90万円

被害者への支払

22万円

85万円

上記のように損害賠償金は被害者の過失分だけ相殺されるので、自由診療の費用を加害者が支払っているから安心していたところ、示談の際に立替金を差し引いた結果、被害者の手許には幾らも残らなかったという例があります。

上記の例でも自由診療よりも健康保険を適用した方が被害者が受け取る額は63万円も多くなります。

過失割合によっては、被害者に負担が発生する可能性もあるので、被害者の負担額軽減のためにも健康保険を利用する方がいいでしょう。

また、加害者が自動車保険(任意保険)に加入しておらず、自賠責保険(共済)のみの場合は、治療費が自賠責保険(共済)の支払限度額(120万円)を超える場合があります。
自賠責保険を正しく理解していますか?

加害者が自動車保険(任意保険)に未加入の場合、自賠責保険を超える部分の治療費などを賠償してもらえない可能性があります。そのような場合にも健康保険を利用しておけば、被害者側の負担を減らせます。

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4.健康保険や労災保険へ第三者行為の届出が必要

交通事故の際に健康保険や労災保険が使えるといっても加害者が賠償すべき治療費を健康保険や労災保険で支払うのは理屈に合いません。

よって、交通事故に遭い健康保険を使って治療を受ける場合、「第三者行為による傷病届」(労災保険の場合は、「第三者行為災害届け」)を提出する必要があります。
協会けんぽHP:事故にあったとき(第三者行為による傷病届等について)

この届を出すことによって、健康保険や労災保険を利用して治療を受けることができます。

そして、健康保険や労災保険は、支払った治療費を加害者に請求(求償)することになります。つまり、健康保険や労災保険は加害者が支払うべき治療費を立て替えて支払っていることになります。

交通事故の際に健康保険を使ったからといって、決して加害者や加害者側の保険会社が得をするわけではありません。

 

 

 

5.100対0(10対0)の交通事故の被害者になっても健康保険や労災保険を使うべき?

ここからは個人的な考えですが、事故相手に100%の過失(責任)がある100対0(10対0)の被害者となった交通事故でも、可能な限り健康保険や労災保険を使うべきだと思います。

交通事故で100対0(10対0)の被害者となった場合、上記のような過失相殺は発生しないので、自由診療で治療を受けても被害者に直接的なデメリットは発生しません。

しかし、自由診療で治療を受けることにより、自賠責保険や自動車保険(任意保険)の支払額は大きくなります。

加害者側の保険金支払額が大きくなるのは特に問題はないのではないかと思われる方が多いと思います。しかし、自由診療で得をするのは病院や診療所だけです。

例えば、健康保険を使えば、50万円の治療費が、自由診療であれば、100万円だったとします。自由診療で治療を受けた場合、被害者は治療費を負担する必要はありませんが、慰謝料などが増えるわけではないので、自由診療で治療を受けるメリットはありません。

一方、健康保険で治療を受ければ、治療費は50万円ですので、自賠責保険や任意保険(自動車保険)の支払額が小さくて済みます。

被害者にとっては一切メリットがないように感じますが、自賠責保険や任意保険(自動車保険)の支払額が小さくなれば、ご自身が加入している自賠責保険、任意保険の全体的な保険料が下がる可能性があり、被害者にも間接的なメリットがあります。

上記事例では、被害者1人が自由診療から健康保険へ切り替えても50万円の差ですが、交通事故の被害者になった方の多くが健康保険で治療を受ければ、大きな保険金支払額の削減になることは間違いありません。

治療費の支払額が大きく下がれば、自賠責保険や任意保険(自動車保険)の全体的な保険料が下がる可能性があります。

交通事故の被害者になると感情的に健康保険を使うことに抵抗はありますが、「第三者行為による傷病届」出せば、健康保険が負担した治療費は加害者側に請求することになります。

よって、被害者が健康保険を使って治療を受けても、加害者側が治療費を負担しなくてよくなるわけではないですし、間接的に被害者にもメリットが出る可能性があることは知っておくべきでしょう。

自由診療で得をするのは、病院や診療所だけで、自由診療で治療を受けても被害者に直接的なメリットはありません。

なお、交通事故で過失割合が100対0(10対0)になる事故例などについては、下記記事をご参照ください。
自動車保険で過失割合が100対0(10対0)となる交通事故とは?

 

 

 

まとめ

上記の通り、交通事故の際の治療費に健康保険や労災保険が使えないということはありません。交通事故の際には、健康保険や労災保険を使うようにして頂ければと思います。

交通事故の被害者になり、過失があるような場合には、自由診療ではデメリットが発生する可能性もありますので、「第三者行為による傷病届」、「第三者行為災害届け」を提出し、健康保険、労災保険を利用することをお勧めします。

「第三者行為による傷病届」、「第三者行為災害届け」を提出し、健康保険、労災保険を利用すれば、健康保険や労災保険から加害者に治療費の請求がいきますので、加害者や加害者側の保険会社が得をするわけではありません

自由診療だと被害者にもデメリットが発生する可能性があり、喜ぶのは病院だけということになります。

最終更新日:2019年6月22日
No.10